2018年07月11日

《黄帝内経》の脈診 第12回



4.《五臓生成篇第十》その2
 前回は寸口脈診と四時脈診法の組み合わせについてです。
 今回は、色診(顔色)と脈診(寸口)を組み合わせた診断法です。


【原文】K
夫脈之小大・滑渋・浮沈、可以指別。五臓之象、可以類推。五臓相音、可以意識。五色微診、可以目察。能合脈・色、可以万全。
赤、脈之至也喘而堅、有積気在中、時害于食、名曰心痹。得之外疾、思慮而心虚、故邪
从之。
白、脈之至也喘而浮、上虚下実、驚、有積気在胸中、喘而虚、名曰肺痹、寒熱。得之醉
而使内也。
 青、脈之至也長而左右弾、有積気在心下支胠、名曰肝痹。得之寒湿、与疝同法。腰痛、
足清、頭痛。
 黄、脈之至也大而虚、有積気在腹中、有厥気、名曰厥疝。女子同法。得之疾使四支、汗出当風。
 黒、脈之至也上堅而大、有積気在小腹与陰、名曰腎痹。得之沐浴清水而臥。


【訳】
 脈の大小・滑渋・浮沈は指で弁別することができる。五臓の外形(皮・肉・筋・脈・骨等の五臓の外形)は類推できる。五臓に相応する音声を観察して意味するところを識別できる。五色の微妙な変化を診るには目で察することができる。脈と色を合せて判断すれば万全である。
赤色が外に現れ、脈が盛んで堅いものは、邪気が中脘に積聚していると診断でき、常に飲食の妨げとなり、病名を心痹という。この種の病は外邪の侵襲により起こり、これは思慮過度により心気虚弱となり外邪が虚に乗じて侵入したものである。
白色が外に現れ、脈が盛んで浮のものは、上虚下実であるからよく驚き、病邪は胸中に積聚して、これが肺に迫り喘息するが肺自体は虚している。この病名を肺痹といい、時に寒熱を発する。発病の原因は、飲酒後に性交して誘発される。
青色が外に現れ、脈が長く弾かれるくらい弦が強いものは、病邪が心下に積聚し脇肋を突っ張らせる。この病名を肝痹という。多くは寒湿邪を感受して起こり疝の病理と同じである。その他の症状として、腰痛・足の冷え・頭痛がある。
黄色が外に現れ、脈が大で虚のものは、病邪が腹中に積聚して逆気がある。この病名を厥疝という。女子にもこの種の病状がある。多くは四肢を激しく運動させて汗を出し風に当たり発症する。
黒色が外に現れ、脈が堅く大のものは、病邪が小腹と前陰に積聚しており、病名を腎痹という。多くは冷水で沐浴して寝て冷気を感受して引き起こされる。


【解説】
1)五色微診、可以目察 について
 王冰説:“色とは顔色なり。肝の色は青、心の色は赤、脾の色は黄、肺の色は白、腎の色は黒、これらは正常な色であり、五臓の変化が交錯して微かに吉凶を見せ、目がよく智の深いものはその色を占い視て(その吉凶を)知ることができる。” と述べているように顔色の診察を指します。



2)能合脈・色、可以万全 について
 王冰説:“色が青いものはその脈弦、色が赤いものはその脈鈎、色黄色いものはその脈代、色が白いものはその脈毛、色が黒いものはその脈堅、これが色と脈の正常な関係である。然るに異同を参照して成敗を断言すれば、審らかで惑わず、万を挙げて万全である。” と述べているように色脈診察法



3)喘の脈象について
 喘は心痺と肺痺の脈象として表現されています。
 喘は“脈が湧くように盛んな脈”として各家が注釈しているが、この脈象は赤色の正常脈である“鉤”脈に類似しています。しかし原文の内容から察すると、体内に積気があり実証ではあるけれど、本体自身は心虚あるいは肺虚がある。ですから盛んに拍動するには正気は不足しているので、喘息のような盛んな状態ではあるけれど、本来が虚証であることを忘れていけない。
 結局、喘の脈象とは喘ぐように速く拍動し、勢いよく来るけれどすぐに消えてしまう脈を指しています。


4)本段の内容
 顔色の色診と寸口脈診から五臓痺証を述べている。
 もう少し具体的に言うと、顔色と対応している五臓の正常脈に胃気の無い脈象を兼ねた場合、五臓の病証として心痺、肺脾、肝脾、厥疝、腎痺が現れる。
 この五臓痺証の病因病機が詳しく述べられている。

 ただし、疑問点が2つある。
 疑問1:顔色が赤く、脈が盛んで堅いものは、心痺だけなのか?そして病因病機もこれだけなのか?(ほかの四臓も同じく疑問あり)

 疑問2:《素問》・《霊枢》に記載されている五臓痺証の内容と異なるのはなぜか?

 この疑問は解決されていません。多くの注釈書を読んでも、あまり詳しく書かれていません。やはり難しい問題なんでしょうね・・・。


5)他篇での心痺を紹介(内容が多すぎるので心痺だけ)
 《素問・陰陽別論第七》:二陽の病で、心痹を発症し、大小便不通で女子には月経停止
がある。

《素問・痹論第四十三》:心痹は、脈不通となり、心煩すれば心下が動悸、上気して喘し、咽乾き、しばしば噫気をする、厥気すれば恐れる。

 《素問・四時刺逆従論第六十四》:陽明不足は心痹を病む。

 《霊枢・邪気臓腑病形第四》:心脈が微大は心痹を為し、背中が引きつれ、涙が流れる。

 《霊枢・官針篇第七》:およそ針法には十二種あり、十二経脈に応じる。一に曰く偶刺。偶刺は胸部と背部の疼痛部位に刺すもので、一つは胸前部に刺しもう一つは背部に刺し心痹を治療する。

 同じ心痺でもこのようにさまざまな病証があり、とても混乱してしまいます。
 そこで、私たちが本条文から学ぶことは、顔色と五臓の正常脈の関係です。
要するに、顔色青と弦脈;顔色赤と鈎脈;顔色黄と緩脈;顔色白と浮脈;顔色黒と沈脈の関係は正常状態。

 本篇以外の色診と脈診を組み合わせた診断法の記載は、
《素問・脈要精微論第十七》と《霊枢・邪気臓腑病形第四》にもありますが、
未だ先ですのでお待ち下さい。


 次回は《五蔵別論》を紹介します。
8月は夏休み。
掲載は9月1日の予定です。


posted by k.yamada at 05:26| 脈診 舌脈セミナー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月01日

《黄帝内経》の脈診 第11回



4.《五臓生成篇第十》その1



【原文】I
診病之始、五决為紀、欲知其始、先建其母、所謂五决者、五脈也。

【訳】
病気を診察する手始めは五决を綱紀とする。その病がどの臓から発生したか知りたければ、先に四時変化に応じる五臓脈を理解する。いわゆる五决とは五臓の脈を謂う。


【解説】
1)五决為紀とは?
 五决為紀とは、五臓の正常な脈象を大原則とする。五臓の正常な脈象は、《素問・宣明五気篇第二十三》:“五脈応象:肝脈弦、心脈鈎、脾脈代、肺脈毛、腎脈石。是謂五藏之脈。”で具体的に述べられている。


2)四時変化に応じる五臓脈とは?
 四時脈診法のことで、季節に応じた正常な脈象を定め、その変化により病の所在を診断する脈診法です。正常な脈象は本シリーズの《陰陽応象大論第五》その2 に紹介しました。ちょっと復習してみましょう。
 《陰陽応象大論第五》“観権衡規矩、而知病所主。”にある権衡規矩とは季節に応じる脈のことをいいました。
具体的な脈象は、
《素問・平人気象論第十八》では規は弦;矩は鉤;衡は毛;権は石。
《素問・玉機真蔵論第十九》では規は弦;矩は鉤;衡は浮;権は営。
そしてその脈診部位は寸口部でした。
 
 四時脈診法については、《脈要精微論第十七》 《平人気象論第十八》 《玉機真蔵論第十九》などにも紹介されています。


3)具体的な脈診法は?
五臓脈診法なのか寸口脈診法なのか、はっきりと述べられていません。恐らく《陰陽応象大論第五》から推測すれば寸口脈診法だと思います。
 春の場合を例にすると;
 無病の人は寸口脈に微弦で胃気のある脈が得られる。もし病を得て甚だしい鈎脈が診られたら、この病は心より始まったと診断;同じように、もし病を得て甚だしい浮脈が診られたら、この病は肺から始まったと診断します。以下同じように考えて診断する方法です。

 これは寸口脈診法と四時脈診法を組み合わせた脈診法です。

 寸口脈診法の脈診部位は《陰陽応象大論第五》その2 で紹介したように、寸口部の太淵穴の拍動を診る方法です。決して寸関尺三部の脈診法ではありません。



 次回は都合により7月15日に掲載できないので、
7月11日の予定です。


posted by k.yamada at 17:46| 脈診 舌脈セミナー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月15日

《黄帝内経》の脈診 第10回



3.《六節蔵象論第九》


 《黄帝内経》中で人迎寸口脈診を紹介しているのは、《素問・六節蔵象論》・《霊枢・終始》・《霊枢・禁服》の3篇です。先ずは《六節蔵象論》から見ていきましょう。


【原文】E−1
故人迎一盛、病在少陽;二盛病在太陽;三盛病在陽明;四盛已上為格陽。

【訳】
人迎脈が寸口脈に比べて一倍盛んであれば病は少陽にある;二倍盛んならば病は太陽にある;三倍盛んならば病は陽明にある;四倍以上盛んならば格陽という。

【解説】
1)人迎寸口脈診とは
 人迎脈と寸口脈の拍動を比較して、十二経脈のいずれが病んでいるかを診断する。本篇は手足の区別はありませんが、《霊枢》ではその区別も記載されています。

2)脈診部位
 人迎とは足陽明胃経の人迎穴。
 寸口とは手太陰肺経の経穴ですが、具体的な記載はありません。経渠穴あるいは太淵穴と考えられますが、わたしは経渠穴だと思います。実際に太淵穴よりも拍動は触れやすく、臨床的には経渠穴の方が診断しやすいです。

3)人迎寸口脈診の方法
 王叔和の《脈経》には人迎を左;寸口を右としていが、これは左右寸口部を指している。だが王叔和以前の人迎寸口脈診法を誤伝したと多くの注釈家が指摘している。そしてその矛盾も述べており、その意見を根拠にして人迎脈は頚部、寸口脈は手にあるとして、その拍動の強さを比較すると考える。そして同時に人迎と寸口に触れて比較するわけだが、人迎寸口脈診法では、人迎脈と寸口脈は左右どちらを脈診するかは記載されていない。そこで《黄帝内経太素》巻十四《人迎脈口診篇》“人迎主外”の【注】《明堂経》曰:“……;人迎在上、居喉両傍、以為陽也。”から人迎は陽だから左側の人迎穴を観察する;さらに《素問・陰陽別論》:“三陽在頭、三陰在手、所謂一也。”から人迎脈は陽、寸口脈は陰と言われている。陰は右だから右側の寸口脈を観察する。
 ゆえに人迎寸口脈診法は、左人迎脈と右寸口脈を比較する診法と考えることができる。

4)少陽・太陽・陽明について
 少陽・太陽・陽明は陽気の多少で区別され、陽気の多さは少陽〜太陽〜陽明へと増えていきます。
 そこで陽気の偏盛に従い人迎脈の拍動も盛んになり、病の所在も少陽、太陽、陽明と変化していくという考え方です。具体的な取穴法は《霊枢》に詳しいです。

5)格陽
 張介賓説:人迎は陽を観察するので、一倍は少陽に在り胆と三焦也。二倍は太陽に在り膀胱と小腸也。三倍は陽明に在り胃と大腸也。四倍以上のものは、陽脈は極めて盛んとなり陰は通じないから格陽という。


【原文】E−2
寸口一盛病在厥陰;二盛病在少陰;三盛病在太陰;四盛已上為関陰。

【訳】
 寸口脈が人迎脈に比べて一倍盛んならば病は厥陰にある;二倍盛んならば病は少陰にある;三倍盛んならば病は太陰にある;四倍以上盛んならば関陰という。

【解説】
1)厥陰・少陰・太陰について
 陰気の多少については、厥陰〜少陰〜太陰と増えていきます。【原文】E−1の【解説】4)と同じように、陰気の偏盛に従い寸口脈の拍動も盛んになり、病の所在も厥陰〜少陰〜太陰と変化していきます。

2)関陰
 張介賓説:寸口は陰を観察するので、一倍は厥陰に在り肝と心包を主る。二倍は少陰に在り心と腎を主る。三倍は太陰に在り脾と肺を主る。四倍以上のものは陰脈が盛んで陽と交われないから関陰という。


【原文】E−3
人迎与寸口倶盛四倍已上為関格、関格之脈贏、不能極于天地之精気、則死矣。

【訳】
 人迎脈と寸口脈が平常脈と比べてともに四倍以上盛んなものを関格という。関格の脈は既に極みに達しており、病人の天寿は全うされず必ず夭折する。

【解説】
1)関格
 張介賓説:関格は、陰陽が隔絶不通し、相互に栄養運化せず、乗羸離敗(じょうるいりはい)の症候である。


 最後に、本篇の内容は《霊枢・経脈》《霊枢・終始篇》《霊枢・禁服篇》の三篇でも論じられています。この四篇を併せて読むと人迎寸口脈診はよく分かります。



 次回は4.《五臓生成篇第十》を紹介します。
掲載は7月1日の予定です。




posted by k.yamada at 17:57| 脈診 舌脈セミナー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする